「となりのたぬき」~相手を通じて自分を変える
「ぼくは となりの たぬきが きらいだ。だいっきらい!」 平成8年に鈴木出版から刊行された「となりのたぬき」(せなけいこ作・絵)は、大人がドキッとしてしまうくらい、感情をストレートに表すうさぎの言葉で始まります。 「へん、いじわる うさぎ!」「ふん、いばりや たぬき!」と、うさぎとたぬきはいつもケンカばかり。「あの たぬき、ぽかぽかになぐって…ぺちゃんこにして…とおくへぶっとばしたい!」うさぎの言葉を聞いたお月さまは、1カ月の間、たぬきに親切にしてやることができれば、自分がたぬきをこらしめてやるとうさぎと約束をします。 次の朝から、うさぎはたぬきの家へ行き掃除したり洗濯したり……
「葉っぱのフレディー」生きることの意味、考える
私たちがどこから来てどこに行くのか、生きることの意味を考えさせてくれる絵本があります。 平成10年に童話屋から刊行された『葉っぱのフレディ-いのちの旅-』(レオ・バスカーリア作、みらいなな訳)です。 春、大きな木の太い枝に葉っぱのフレディが生まれました。フレディには皆違う形をしたたくさんの友達がいました。夏、大きく成長したフレディたちは公園にやってくる人たちに木陰を作り、これも木の大切な仕事であることを知ります。紅葉の季節が過ぎ、次々に落ちていく葉っぱたちを見て怖がるフレディに、友達のダニエルが語りかけます。変化することは自然なことで、死ぬことも変わることの一つであること、いつかは死…
「くるま はこびます」 情景や振動までも感じて
車好きの子供がこの車に出合ったら、きっと目がくぎ付けになることでしょう。 平成25年に福音館書店から刊行された『くるま はこびます』(小風さち文、鈴木周作絵)は、中古車センターから街の車屋さんに、たくさんの車を運ぶキャリアカーのお話です。 荷台を揺らし、キャリアカーがやってきます。「シャララーン シャララーン、シャン シャン シャン。くるま はこびまーす。」 絵と文章から、街の喧騒(けんそう)の中でエンジン音や荷台の金属がぶつかり合う音、道路から感じる振動、機械の油の匂いまでも伝わってきます。 運転手のおじさんが荷台の後ろに道板を渡し、スイッチを押すとモーターがうなって、2…
「おふろだいすき」~空想の世界で遊ぶ
シャボンに湯気、波打つお湯に、響く音…。お風呂は子供にとって面白くて不思議な空間です。 そんな空間で子供の想像力をかきたてる絵本が、昭和57年に福音館書店から刊行された『おふろだいすき』(松岡享子作、林明子絵)です。 まこちゃんはいつも、あひるのプッカを連れてお風呂に入ります。プッカがお湯にもぐると、お風呂の底から、なんと、カメ、ペンギン、オットセイが次々に現れます。石鹸(せっけん)を飲み込んだオットセイの口からは大きなシャボン玉が! 鼻の頭でくるくる回しパーンと割れると、「それで、ぼくのからだを、あらってくれないか」と、今度はカバが現れます・・・ 【語り】相川由里 ■こ…
「手ぶくろを買いに」~心に希望を灯してくれる
昭和63年に偕成社から刊行された『手ぶくろを買いに』は長年読み続けられてきた新美南吉のお話です。繊細で温かな黒井健の絵は、美しい言葉で語られた情景と狐(きつね)の親子の心情を際立たせます。 森にどっさりと雪が降った日、牡丹(ぼたん)色に冷えた子狐の手を見た母さん狐は、坊やの手に合う手ぶくろを買ってやろうと思います。親子で街の灯が見える所までやってきますが、人間の怖さを知っている母さん狐の足はすくみます。早く行こうと言う子狐に、仕方なく、母さん狐は子狐の片方の手を人間の手に変え、その手に白銅貨を握らせます。そして、帽子の看板の家の戸の隙間にこっちの手を入れ、この手にちょうどいい手ぶくろを…
「ゆきのうえ ゆきのした」 想像力働かせ見えない世界を知る
平成25年に福音館書店から刊行された『ゆきのうえ ゆきのした』(ケイト・メスナー文、クリストファー・サイラス・ニール絵、小梨直訳)は雪の下の秘密の世界を描いた絵本です。 主人公の女の子は、お父さんと一緒にスキーで真っ白な雪の冷たい森の中へと入っていきます。1匹のアカリスが、ふわふわの雪の隙間に消えました。「どこへいったの?」と尋ねる女の子に、お父さんは「ゆきのしたには、まったくべつの、ひみつのせかいがあってね。」と、リスやウサギ、クマやウシガエルや、いろんな生き物たちが、寒さや危険から、身を守って暮らしていることを教えます。 【語り】相川由里 ■この番組は 毎週1冊ずつ、国内…
「ふくはうち おにもうち」 怖さやつらさは幸せの表裏
節分の季節、そのタイトルに心ひかれる絵本があります。 平成16年に岩崎書店から刊行された『ふくはうち おにもうち』(内田麟太郎作、山本孝絵)です。 雪がちらちら降る夜更け、子だくさんで貧乏暮らしの男が1人で留守番をしていると、「さむいよう、さびしいよう」という声が聞こえてきました。戸を開けると、そこには鬼たちが立っていました。男は「こんな さむいばんに。おにも なにもない」と遠慮する鬼たちを招き入れ酒を勧めます。帰ってきたおかみさんと子供たちは鬼に腰を抜かします。鬼は、出ていってと泣いて頼むおかみさんをよそに、歌えや踊れの大騒ぎ。すると、「たのしそうな うちだのお」と、にぎやか好き…
「しりとり」 絵から広がる新たな世界
平成30年に福音館書店から刊行された『しりとり』(安野光雅作、絵)は、小さな子供からお年寄りまで、一人でも誰かと一緒にでもしりとりを存分に楽しめます。と同時に、その絵から、新たな世界が広がることを可能にする絵本です。 表紙から裏表紙まで250点以上の物や動植物の絵が描かれ、本文ページにはその名前がひらがなで記されています。はじめのページの中から好きな絵を選び、その絵としりとりができる絵を次のページで探します。最後のページで、「ん」で終わる絵につながればおしまいですが、つながらなければ最初のページに戻って、しりとりは続いていきます。 私の知人のお宅では、言葉を覚え始めたチコちゃんが、…
「あなはほるもの おっこちるとこ」~あふれる素直な言葉たち
昭和54年に岩波書店から刊行された「あなはほるもの おっこちるとこ」(ルース・クラウス文、モーリス・センダック絵、渡辺茂男訳)は、私たちの身の回りにある人やもの、ことを、子供の視点から説明し、定義した絵本です。 「ては つなぐために あるの」 「どろんこは とびこんで すべりこんで おっころりんの しゃんしゃんて やるところ」 「こどもは かわいがるもの」 これらは実際にアメリカの保育園や幼稚園の子供たちが発した言葉です。原著は1952年に刊行されて、長く読み継がれている絵本です。 この絵本を子供たちに読むと、「そうだよ!」「僕もそう思う」と、現代の子供たちが70年近く前の子供…
「いきものづくし ものづくし」 まるで博物館のような一冊
令和3年に福音館書店から刊行された『いきものづくし ものづくし』は、全12巻からなる図鑑のようで図鑑ではない、まるで博物館のような絵本です。各巻7つのテーマで、生き物や物がところ狭しと並んでいます。7人の画家やイラストレーターによって描かれた緻密で美しい絵に、おもわず引き込まれます。 【語り】相川由里 ■この番組は 毎週1冊ずつ、国内外の気になる絵本を紹介していきます。選者は、国立音楽大教授・同付属幼稚園長の林浩子氏。書店には余り並んでいない作品も多く取り上げます。定番の絵本に飽きたらなくなったら、ぜひ参考にしてください。 番組のフォローと高評価をお願いします! Apple P…